ラノベで一次選考落ちになる作品

一次選考落ちについて、自分なりに調査した結果の感覚を書いておこう、と思った。
主にラノベ(電撃、MF、富士見、ガガガ、GA等)公募での話です。

まず、一次選考落ちとは

〇〇文庫大賞、という小説の募集(いわゆる公募)に応募し、選考された結果、一次選考の段階で選考対象外とされること。その時点でその作品は次の選考に進めず、賞をもらうことができない。他の呼び方では一次落ち、一次落選、など。
通常、選考は一次、二次~最終選考と段階を踏み、上の段階になればなるほど出版社の編集者や現役作家のゲスト審査員といった『ある程度業界に精通した人物がその作品を吟味する』ようになる。
反面、募集数が多く、一々吟味してられない一次選考は「ふるい落とし」の意味が強い。
このふるい落としで選考対象外と認定されてしまった作品が一次選考落ち。

ひと昔前は「読んで内容を理解することが難しい、日本語かどうかすら疑うような支離滅裂な作品」をふるい落とすとされていたが、それが嘘だったのか本当だったのかはともかく、昨今ではある程度それっぽい作品でも普通に落とされる選考段階となっている。

GA文庫のサト氏のツイッターによると、応募作を一次通過させるかどうかは、全体の1/3が厳しい、1/3が通る、1/3が迷う、らしい。

で、一次選考は誰がどうやってる?

一次選考の多くは下読みと呼ばれる一次選考専門の読み手、またはその業界にいる作家等が担当し、編集者が関わることは少ない。
(GA文庫は一部一次選考の段階で読んでいる模様)

出版社からある程度の求める作品の傾向等は伝えられていると思うが、基本は「小説になっていない作品」または「小説の体をしてるけどほとんどの人が面白くないと断じる作品」を落とすのが目的なため、編集以外が担当しても「実はとてつもなく面白い作品」を見落とすことはめったにない。

とされている。めったにない、なので、たまにはある模様。

この「たまにある、一次落ちだけど凄い作品」をもてはやして、「一次落ちは運」「一次落ちは下読みだから当たりはずれがある」などと強がるワナビがいるけど、大体は「小説になっていない作品」が落とされるわけで、一次落ちは一次落ちとして受け止めるのが基本。

小説になっていない作品、面白くない作品とは?

テーマが無いとか、アンチテーゼがないだとか、キャラが良い悪いとか、そういうのではない。
もっともっと基本的な部分が抜け落ちていることが多い。
驚きがない作品。ご都合主義が透けて見える予定調和な作品。既存作品の劣化でしかない作品、など。

総合して一般的によく言われるのが、

読者のことを意識していない作品。

この指摘は本当に良く目にするけれど、実際のところ具体的な指摘にはなっていない。
で、その具体的な中身をこれから解説しようと思う。

まず一つ目。

語の構成がエンタメの体を成していない。

これが一次落ち作品に一番多い部分かな、と思われる。
一応矛盾もなく伏線とかオチとか盛り上がりがあるのに、なんで落ちるんだろう? という作品。

良く一次落ちする人はここが出来ていないことが多い。(一次落ち作品をなろうやカクヨムで調べた限りでは)

序破急、起承転結、三幕構成、神話の法則、save the catの法則……、なんでもいいけれど、物語を面白く読ませるための構成というのはある程度決まっている。
おおざっぱに頭から書くと、
・主人公が出てきて、主人公周りの設定、世界観が伝わるシーン(日常)
・主人公が物語を通して解決(討伐)するべき目標の開示(日常→非日常)
・目標に対しての障害が出現し、それをなんらかのイベント(仲間や強化イベント等)を通して乗り越える(非日常)
・障害を乗り越えて成長した主人公が目標を達成する(非日常→日常)

基本はこの形。

この形から多少それることはあっても、完全にそれてしまうと興味を失い、面白くないという評価につながる。
配分として非日常パート>日常パートの文量にしないと退屈なモノになりやすい。
初心者にありがちなパターンは以下。
・主人公以外が活躍し、主人公が目的の達成に必要ない、関与しない。
・障害もなにもなく、主人公の成長がないままそのまま目標を達成してしまう。
・序盤で目標を開示せず、ドタバタ敵と戦ったり、ラブコメしたりするだけで物語のほとんどを消費する。
・目標は開示するが、達成、またはそれに準拠する達成感を得られるラストシーンがない。
・目標(ストーリー)とは関係ないシーンが多い。(日常パートが多い)

面白さの中には世界観や設定、爽快感、キャラクター性など色々あるものの、それらはぶっちゃけ「人によって変わる」のでアテにはできない。
けれど、「こういう展開は燃える」「こういう物語の流れは楽しい」という「楽しませる(エンターテインメント)」手法、展開、構成というのはある程度決まっている。俗に「お約束」と呼ばれるモノ。
この、人によってあまり左右されない「エンターテインメント性」をきちんと発揮させてあげないと、世界観もキャラも相手に伝わらない。
だから「キャラ頑張ったのに!」という作品でも構成がエンタメエンタメしてないと全体的に微妙作品と認定されてしまう。

まずは物語を楽しませる(エンタメ)構成を知る。

これが一つ目。

次は二つ目。

まりにもオリジナリティが無い。シンプルすぎる。

ぶっちゃけこれを一次に要求するのは酷だと正直思っているものの、落ちている作品を見ると事実だと思う。
特に
「一次に落ちたり受かったりするけど、なんなんだろうなぁ」という人がハマる罠。
小説の体は成しているが、物語としては面白くない、という評を下される。

ラブコメを例に挙げると、
・主人公の境遇とヒロインの環境と設定が開示される
・主人公とヒロインが邂逅する。(両者間のみの秘密を知る、握る)
・イベントを通して主人公とヒロインの仲が深まるが、仲たがいして不仲になる。その後、なんやかんやあって和解する。
・ヒロインの事が気になっていた自分を自覚して主人公がヒロインに告白する。
という話。
一見して世にあるラブコメの基本を踏襲しており、なんの問題も無いように見える。
ただ、あまりにも世にあるラブコメすぎて、「今更こんな話見せられても」という評価になってしまう。
これを回避する方法はキャラを奇抜にする、舞台を特殊にする、などが考えられるけれど、最も単純にオリジナリティを発揮する方法が一つ。

それが、
サブストーリーを展開する。
という手法。
一本軸のメインストーリーのみでは被るものの、ストーリー軸が二本、三本となればそれだけ複雑性があがり、オリジナリティに繋がる。
一時期はこれで「特殊な部活×ラブコメ」が乱立した時期があった。
現在では特殊な部活モノもわんさか出ているのでオリジナリティを出すにはなかなか難しい。
そのため、「特殊な部活×ラブコメ×更にもう一本ストーリー軸」という手法が取られることも。
ただ、ここまですると話をまとめるのが難しくなるので、特殊な部活の部分を捻ったほうが良いことも。
ファンタジーであれば、
「異世界転生ファンタジー×不遇スキル」
「異世界転生ファンタジー×おっさん」
などがなろうでよくみられる組み合わせ。これも大量に出始めてるので今から作るなら他のサブストーリーを考える必要がある。
とにかく、このメインとサブの組み合わせで「おっ、珍しいやん」と思わせるストーリーを用意するのが一番の解決策。
ぶっちゃけキャラとか舞台、世界観は人によって評価変わるのでオリジナリティの指標として使えることは使えるが安定性はない。
(人によっては深い設定を考えることもできるけど、一次落ち作品を見ている限りではあまり通用していないのが現実だと思われる)

次に三つ目。

ッチすぎる。売れ筋ではない。想定読者に受けない設定。

これで一次落ちることはあまりない。三つの中では一番可能性が低いものの、落ちる要素として数えられる。
むしろ二次落ち辺りに多かったりする。

ラノベの読者はティーンエイジャー。10代の男性。
よって、主人公は「男」であり、「若者」(高くても20代前半)で、最終的にヒロインや仲間から称賛されるような「ハッピーエンド」が用意されているのがベター。
主人公の体験としては「敵との戦闘」「ヒロインとのラブコメ」「仲間との友情、青春」辺りがウケやすいストーリーで、
「剣や魔法、スキルなどのファンタジー(ゲーム)要素」「妹や甘やかし姉、ツンデレ、クール、その他二次元キャラ特有の属性持ちヒロイン」などの設定がウケる。

と、書かなくてもラノベを読んでいる人にとって「王道」「テンプレ」をイメージしてもらえればそれで事足りる要素。
ただ、女性主人公、おっさん主人公、全滅ENDなどでも受賞することはあるので、
あくまでも、「同程度の面白さの作品が並ぶ中でのマイナス要素」というイメージ。
他の設定で代替え効くのにどうしてこの設定にしたし、というツッコミを抑えられるほどでない限り避けるのがベター。
「ニッチでもいいんだ! 書きたいんだ!」と聞いてもいないのに叫ぶ人は一度叫ぶ前に王道を書くことをオススメ。
おっさん主人公が流行り、おっさんなろう太郎が増える中、なろう作品を読んでて感じるのは、
「どうしておっさんなの? 普通に若い男で良くない?」という疑問。
「どうしてその設定なのか」という説得力が得るためには、一度王道を書いたほうが良いように感じる。感じます。
いや、おっさんが嫌いなわけじゃないです。

以上三つが一次落ち基本三原則。
以下はそれ以前の問題。

良くあるダメポイント

冒頭がポエム
そのまま。冒頭は主人公の紹介、世界観の開示と読者の掴みをする重要な部分なので、そんなものにページを割く余裕はありません。

誰が喋ってるのか分からない
これもそのまま。口調、人称等々で差別化できるものの、基本的にはセリフの前後にはだれが喋っているのか、の描写が必要。

読点がめっちゃ多い
初心者にありがち。読点が多い。文節の度に出てくる。文章として意味を誤解させない文法としては正しいものの、読物としては微妙になる。
例えば、こういう、文章を、声に、出して、読んでみると、よくわかる。
つっかえつっかえで読むのに疲れるのが分かるはず。

後半まで物語が動かない
山場までが長い作品。一次落ちに非常に多い。
全体ページの半分まで行ったら冒険ファンタジーなら主人公が窮地に陥っているか、ライバルや仲間なんかと衝突して緊迫したシーンとなっているのが普通。
それなのにグダグダとコメディシーンや敵を無双するシーンを描き続けて、
物語の7割を消化した段階でようやく強敵が出てきて、ドタバタして急ぎ足でエピローグまで行く作品が多い。
総じてページ配分、シーンの取捨選択が上手くいっていない。
これは推敲不足ともとれる。要推敲。

カタルシスが無い
主人公以外がラスボスを倒したり、そもそもラスボスが出てこなかったり、無双したままそのノリでラスボスを倒したり。
言い換えると物語の起伏が無い、とも。
昨今の作品ではあまり主人公の修行や苦境などは見られないものの、そういう作品でも「敵が超強い、どうすんだこれ」みたいな描写は確実に存在する。
使うのは主人公以外の噛ませ犬でもなんでもいいので、ラスボスはやはり「さすがの主人公でも倒せないのでは?」という読者の予想を裏切りつつ、読者の期待に応える必要がある。

行動に一貫性が無い
「お前いきなりどうした?」と読者に言われるキャラクター。ご都合主義とも呼ばれる。
行動の一貫性というと分かりづらいけど、一貫性が無い、ご都合主義、と判断されるのは主に「大きな決断」をした時。
この決断が普段の姿とかけ離れていればいるほど不整合を起こしてご都合主義やん、と評される。
要するに「大きな決断をするためには、その決断に至る積み重ねが必要」ということ。
仲間を殺されて奮起するにはその仲間と親しみを積み重ねる必要があるし、
弱気な主人公が前向きになるには、自分に自信が持てるようなイベントが必要。

でも面白ければ突破する

色々書いたけど、「なにこれ、はちゃめちゃだけどおもろい!」という型にはまらない作品も存在し、そういう作品は上記のポイントを無視しても面白かったりする。

ただ、「面白ければいいんだよ!」「面白さ絶対主義!」みたいな言葉でごまかされやすいけど、天才が繰り出す「謎の面白さ」以外の面白さにはある程度の「説明可能なロジック」が存在する。
このロジックに従って一次選考は行われるため、一次選考に良く落ちる人は今一度見直すと良い、かもしれない。
面白さの基本ロジックを無視して適当に書いても面白いわけはないので、天才ではない人はきちんとステップ踏んで書くべきで、この基本が出来ていないと一次選考落ちの対象となってしまう。

と、いう理解に落ち着きました。頑張れ。

ラノベ

Posted by luini